れんげ蜜。それは一面のレンゲ畑で採れる蜂蜜です。
レンゲ畑は、本当に日本のあちこち、どこにでもあった懐かしい風景。
稲刈りが終わった後の稲株を踏みしめながら歩く田んぼは電柱もなく、
どこまでも広い草野球や凧揚げのフィールドにもなりました。
畝道にはたくさん昆虫や蝶が遊び、
春になって一面のレンゲ畑が広がれば一転、首飾りや花冠を作っておままごと・・。
疲れたらレンゲ畑の上に大の字に寝転んで、服が汚れる事なんて気にしなかった時代。
土と草の香りを吸い込んで、まぶしい青空を見上げるとちょっと眠たくなってそのままウトウトすることも。
決して珍しくない日本の原風景。
そして、そんな景色と同様、昔はどこのおうちにもあったなじみ深い蜂蜜がれんげ蜜。
北海道から九州まで、どこでも採れる、毎年採れるという身近さもあり、
手に入りやすい蜂蜜として長年にわたり、日本の食卓を賑わわせてきました。
パンにぬったり、風邪をひいた時にお湯割りにしたり、ホットケーキにも活躍しました。
「蜂蜜の王様」とも呼ばれているほどポピュラーですが、
今や、日本国内で手軽に買えるのは、ほとんどが中国など海外産。
国産のれんげ蜜は、レンゲ畑の減少とともに収穫が減り、現在は、とても貴重な蜜として取引されています。
どうしてレンゲ畑はこんなにもすっかり姿を消してしまったのでしょうか。
元々、レンゲ畑に代表される一面のレンゲは、稲の肥料として植えられていた事情があります。
稲刈り後の田んぼにレンゲの種をまき花が咲くままに任せ、その後、レンゲごと耕すことで稲作に適した肥料となるためです。
とても自然で美しいこの方法は瞬く間に日本中に広がり、稲刈り後、
冬期の田んぼにはどこでも一面のレンゲ畑が見られるようになりました。
レンゲには桜のように徐々に北上して咲いてゆく「レンゲ前線」があり、
春の訪れがやってくるとハチミツを採る養蜂家さん達は、そのレンゲ前線に沿って
九州から北海道まで次々に北上し、蜜を集めたものでした。
しかし今や、田んぼにレンゲの肥料は要らなくなり、レンゲ畑は姿を消しました。
なぜなら、非常に安価な化学肥料が発達し、あっという間に化学肥料全盛に移り変わって行ったためです。
そうなればレンゲごと耕す、という手間さえ惜しまれてしまい、
田んぼにレンゲの種を蒔くこともなくなりました。
国産のレンゲ蜜も減少の一途をたどるばかりに。
気づけばあれほどポピュラーだったレンゲ蜜も、売っているのは中国など海外産ばかり。
もちろん海外産の蜂蜜にも、美味しいものはたくさんあります。
しかし日本人が昔から馴染んだ「あの味」「あの香り」とは、やはり風土の違いから、どうしても差が出ます。
土地が違えば味も違う・・・ワインや日本酒、漬物と同じですね。
久しぶりに懐かしいれんげ蜜が食べたいな!と思って買い求めると、
なんだか味が、昔感じたイメージと違う気がする・・
気のせいかな?という感覚は、気のせいではありません。
蜂蜜も土地の違いが風味の違いにハッキリと表れます。
そのため、ドラートで国産のレンゲ蜜を食べた人は、
「あ!この味!この味!」「まさに昔食べた味!!懐かしい~」とよく仰ったり、
ご年配の方へのギフトへもとても喜ばれます。
そう、この蜂蜜は、美味しいだけでなく、味わうと、懐かしい思い出が広がる特別な蜂蜜。
やはり、昔食べた味、というのは特別な思い出とともによみがえるものなのでしょうね。
そして今、あの頃食べた、あの風味のレンゲ蜜が、私たち蜂蜜専門店ドラートに届いています。
ご年配の方々や、田舎で若き日を過ごした方々には、まさに、あの春の香り、春の思い出そのものの味。
懐かしいあの日々を思い出す、昔ながらのレンゲ蜜。
ぜひお手に取ってください。
テイスティングもご用意しております。
ところで最後に余談ですが、この国産のレンゲ蜜、
本当に美味しく、本当にクオリティが良くて、本当に、あの懐かしい風味を持つものは、
決して多くは採れません。
実は、私たち蜂蜜専門店ドラートにも長く入荷が無い時期がありました。
本当に美味しい、本物の『懐かしい、あの国産レンゲ蜜』にこだわって、入荷を見合わせたためです。
今回は国産レンゲ蜜、そして日本の失われた風景の少し淋しい物語をお送りしましたが、
ドラートの国産れんげ蜜を手にした人は、故郷の景色や、懐かしい人々の顔を思い出しながら、
大地の香りと風の匂いを感じながらお楽しみくださいね。
記事/松浦 由紀